うちのふうふとエイトのこと。

黒トイプーのエイトや車。ふうふの日常について。

鯛中の鯛。

 

「今日、カシラは何があるかな」。

外祖父の代から馴染みにしている鮨屋のカウンターに腰掛けビールを註文すると、父は口癖のようにご店主に訊ねたものでした。カシラと謂うのは、身を取った後の魚の頭のこと。鯛が残っていれば「しめた」ものです。煮付けか焼くか、それとも蒸しで戴くか。出来上がりを俟つ間に刺身を少し。平貝は軽く炙って磯辺焼きでね。鮟肝はぽん酢で、紅葉おろしと浅葱を多めに。白子の天麩羅は塩が合うかな。毛蟹のグラタンも食べたいなあ。お酒も吞んで家族の会話も盛り上がった頃に、ちり蒸しで料った鯛の兜とご対面。皆しばし無言で立ち掛かります。

だんなは根からの貧乏性なので、魚料理を戴くときにも可食部分は凡て残しません。猫も跨いで通るくらいです。ために、カシラを堪能する際には、漏れなく「鯛中の鯛」を釣り出します。鯛の肩甲骨と烏口骨なんですが、成る程ちんまりとした鯛の縮尺模型のように見えますね。

鯛の鯛で「二重にめでたい」。魔除けの御守や縁起を呼ぶ福物とされる所以です。冩眞の鯛中鯛は、件の鮨屋でだんなが釣り出したものをおくさんが綺麗に洗って補強のためにマニキュアを塗ったものです。父が生前使っていた財布に入っていました。いつも持ち歩いてくれていたんだね。

50年ほど通う馴染みの鮨屋にも、コロナがために行きつけていません。今度鯛中鯛を釣り出せるのはいつになることやら。せめて、おみやを握って戴きに訪うとしましょうか。