うちのふうふとエイトのこと。

黒トイプーのエイトや車。ふうふの日常について。

鮨の多様性。

 

 先日スーパーに並んでいる握り鮨を冷やかしていた時のことです。どれも「さびぬき」と表示されています。吾とはなしに「山葵抜きしかないんだな」と独り言ちてしまいました。

 ご親切に近くに居らしたご婦人が教えて下さったのですが、其の売り場では鮨は凡て山葵抜きで、小袋に入った練り山葵を必要な数だけ取っていくのだそうです。成る程と得心が行きました。華屋与兵衛が握早を漬けていた時分と、今時では衛生環境も全く違います。山葵の抗菌性に恃まずとも安全な鮨が食べられる。加うるに、鮨種に山葵を置く一手を減らすことが出来るので、加工効率が上がる。合理的です。

 味の観点からはどうでしょう。山葵の風味は短時間で飛んでしまいますから、握った鮨を直ぐに食べるので無ければ、雑味が増すだけで妙味は得られません。合理的です。

 若い方にはさび抜き派も少なからずいらっしゃると聞きます。鮨の食べ方は自由ですから、山葵入りでも山葵抜きでも或いは山葵多めでも一向に構うことはありません。ですが、本山葵の消費量が減っていくのは少し寂しい思いがします。態態「本山葵」と謂うのは、ご存知の通り、市販の練り山葵は殆どが西洋わさびを主原料としているからです。西洋わさびは辛みが強く、本山葵の1.5倍の辛さと謂われています。やや苦みもある。生命力が強く、本山葵に比較して格段に栽培が容易で生産性効率が高いのも特徴です。本来白い西洋わさびを緑に着色したものが小袋入りの「わさび」なのです。

 だんなが幼い頃は、さびぬきの鮨なんて識りませんでした。山葵が入っているのが当たり前だと思っていたのです。スーパーでは生鮨は購えませんでしたし、近間には廻転鮨もありませんでした。今は手軽に色色なお寿司が食べられる。食べる物にも多様性がある方が愉しいですね。

 本山葵を鮨を握る直前におろして、種によって量も変える。戴くと、辛さだけではなく甘味も感じる。本山葵の国内生産量は減る一方です。山葵農家の後継者不足も深刻化しています。鮨の多様性を支えるためにも、僭越乍、山葵嫌いの方も本山葵をお試し下さい。

 そう謂えば過去には5,000トンを超えていた干瓢の生産量も、とうとう200トンを下回ってしまいました。いずれ、本山葵の利いた美味い干瓢巻きが一等高級な鮨、なんてことにはならないで欲しいものです。

 

 「大将、次は『泪巻きのさび抜き』を戴こうかな」

 「でもお客さん、それじゃあ只の『シャリ巻き』になっちまいますが」

 おあとがよろしいようで。

 

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