ふうふは蕎麦が好きです。コロナ禍でふつに行けておりませんが、蕎麦屋で呑むのはなんとも楽しい。先ずはハイボールで乾杯。鞍掛豆の塩茹でや黒ちくわの天ぷらなどの蕎麦前をつまみに、辛口の白ワインを開ける。出汁巻玉子と、クリームチーズの西京漬けと削り節添えを追加して、もう一本。せいろ一枚を〆にご馳走様。蕎麦湯を忘れてはいけませんね。お勘定を済ませ、ここまで所要一時間。
転居したため、前を通ることもなくなりました。しつこく通った蕎麦の佳店は、今では遠くになりにけり。
蕎麦屋ならではの酒の宛てとして、「ぬき」や「吸いたね」があります。種物の蕎麦をぬく野暮な振る舞いですが、江戸っ子の間では粋人のあそびに転じたようです。天麩羅蕎麦であれば天ぬきとなり、そばつゆに泳ぐ種で燗酒の入った徳利を傾ける。これを恰好良くやっつけるのは、慥かに骨折りを強いられそうです。
精魂込めた蕎麦をぬけとは、おいそれとは口に出せません。足繁く通って、店主と入魂にならないと注文できないので「天ぬき十年」という言葉も。
以前にもふれた子母沢寛は、麺類を題材とした述作で「下地」という言葉をまずまず用いています。だんながつけ汁や醤油の意味があることを知ったのは、読後時間を置いてからでした。
気の置けない蕎麦屋で、さくりと昼下がりの午後を過ごす。尻が長いのは不粋ですし、これより呑むと下地が出ます。今日はこの辺で。