うちのふうふとエイトのこと。

黒トイプーのエイトや車。ふうふの日常について。

平均の罠。

 

 「年収443万円」。国税庁が毎年発表する「民間給与実態調査」によれば、2021年の給与所得者の平均年収の額面金額です。手取額ではありません。税金や社会保険料を差し引けば、懐に入るお錢は月30万円弱くらいでしょうか。

 小林美希氏の「年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活」から詳細を引きます。

平均年収443万円というのは、あくまで平均値。中央値は思いのほか低い。年収の分布を見ると、最も多いのが『300万円超400万円以下』で、全体の17.4%を占めている。3番目に多いのが『200万円超300万円以下』の14.8%で、3人に1人が200万~400万円の間の収入となる。

 給与所得者の3割以上が、所謂平均年収に届いていないことになります。

 本書は「第1部 平均年収でもつらいよ」から「第2部 平均年収以下はもっとつらいよ」で取材に基づき、職種や世帯年収を具体的且つ詳細に掘り下げて「平均年収では普通の暮らしが出来ない国」の生き辛さと不安を丁寧に描写し、この30年間に日本に何が起きたのかを総括しています。

  何故日本企業の賃金は上がらないのか。雇用形態による賃金格差は日本固有の問題なのか。2010年代の雇用形態間の賃金比率の比較では、日本の非正規雇用者は他国に大きく劣後しています。加うるに、非正規雇用者は労働時間が長くなるほど時間当たりの賃金は低くなると謂う分析もあります。これは日本固有の現象です。

 政府が掲げる働き方改革では、雇用の流動化が経世済民活性化の端緒としているようですが、如何でしょう。この点については、大和総研の溝端幹雄主任研究員が分析を行っています。給与所得者にとって最大の関心事は、雇用が流動化して賃金が増えるのか、それとも減ってしまうのかでしょう。年齢階層別では、20~30代では転職後に賃金が増加する割合が高いが、特に男性では40代後半以降、減少する人の方が多いのだそうです。では、流動化は如何進んでいるのか。溝端氏の分析では、転職による賃金の減少が予想されるにも拘わらず、労働需要の強い業種に給与所得者が引き付けられている。政府が考える生産性の低い産業から、生産性の高い産業に労働者が移転し、経世済民の成長率が高まると謂うシナリオに反して、成長はしているものの生産性の高くない産業への労働力移転が起きているのです。何故か。生産性の高い産業や企業ではイノベーションが聯関的に起きる。ために、必要とされる労働力は逓減し、雇用は縮小します。芙蓉となった労働力は、イノベーションが起き難く労働集約的な産業に吸収され、結句、成長率は下がると謂う真逆の帰趨が決する訳です。

 持続的な賃上げや労働構造の改善を目指すならば、政府や御用組合に恃んでいては駄目でしょう。欧州の一部の様に、産業別の労働組合を組織し、組合間で雇用の流動化や給与保証を調整するのも一案だと思うのですが、まあ此の国では無理ですね。政治家の一丁目一番地は「目の前の課題に真剣に取り組まないこと」ですから。

 雇用格差が拡大し、低所得で生活が破壊され苦しむ人が居ます。軍事力指数世界5位の日本が、増税してまで大幅な軍備増強を図るより前に、すべきことがあるでしょう。何時まで忘れているふり、見ないふりを続けるのか。見ざる、聞かざる、与太だけは謂う。そんな政治家を赦しているのは「此の程度の国民なら此の程度の政治」と、国民が自覚しているからなのでしょうか。

 雇用形態による賃金格差の拡大と、少子化には一定の聯関がある。現代の若い世代が背負う負荷も、概ね誰もが予見できた筈です。それども三猿の叡智を用いたのは、就職氷河期に絶望した当時の若者たちには負荷を担う力がなかったからでしょう。

 本書には、17年前に当時の伊藤忠商事会長であった丹羽宇一郎氏の談話を紹介しています。少し長くなりますが、最後に引いておきます。

 富(所得)の2極分化で中間層が崩壊する。中間層が強いことで成り立ってきた日本の技術力の良さを喪わせ、日本経済に非常に大きな影響を与えることになる。中間層の没落により、モノ作りの力がなくなる。同じ労働者のなかで『私は正社員、あたたはフリーター』という序列ができ、貧富の差が拡大しては、社会的な亀裂が生まれてしまう。

 戦後の日本は差別をなくし、平等な社会を築き、強い経済を作り上げたのに、今はその強さを失っている。雇用や平等の2極分化が教育の崩壊をもたらし、若い人が将来の希望を失う。そして少子化も加速する。10~15年たつと崩壊し始めるた社会が明確に姿を現す。その時になって気づいても『too late』だ。

 企業はコスト競争力を高め、人件費や社会保障負担を削減するためにフリーターや派遣社員を増やしているが、長い目でみると日本の企業社会を歪なものにしてしまう。非正社員の増加は、消費を弱め、産業を弱めていく。

 若者が明日どうやってご飯を食べるかという状況にあっては、天下国家は語れない。人のため、社会のため、国のために仕事をしようという人が減っていく。

 まさに、慧眼だと思います。

 

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