うちのふうふとエイトのこと。

黒トイプーのエイトや車。ふうふの日常について。

陳弁。

 

車の名はアルファロメオ4cスパイダー33ストラダーレトリビュート。33はトレンタトレと読むそうだ。古典の前座噺かよ、と突っ込みたくもなる。流麗なデザインと画期的な結構を持ち、老舗のイタリアンブランドが産んだ奇跡の一台と称賛を浴びたが、販売不振か或いは不採算が原因か、残念ながら2020年の4月に終売となってしまった。最後に国内50台の限定車が販売され、手動で屋根の取り外しが出来る型式に与えられたのが文頭の名だ。2020年末に世に出ると告知されたが、俟たずに瞬間蒸発する様に売り切れていた。購入を思い悩む猶予もなかった。そして年末を迎える前に父が鬼籍に入った。

 

アルファロメオの紋章には蛇が象られている。このブランドには多くはないが父との思い出があった。故事付ければ父は巳年でもある。最早贖うこと叶わぬとなると、余計に手に入れたいと思った。思い当たる伝手を全て辿ったが当然在庫は無い。キャンセルも期待出来ないと言われたが、一縷の希みを残した。

 

愛知のディーラーからキャンセルが出たと連絡があったのは、父の佰日忌法要を終えた午後だった。スパイダーの右ハンドル。最も欲しいと思っていた。後で聞いたが、7台しか生産されなかったそうだ。

納車までは一年か一年半か、コロナの影響もあり良く分からないという。その間にキーケース、キーホルダーに手袋、そして靴を誂えた。凡そ車に触れる物は、きちんとしたかった。

 

車は、暁闇から少し、朝露に潤びた薔薇の様な色をしていた。父が好んだ風情であった。小さなスポーツカーだし良いかとも思ったが、己身に顧みて気羞しいので違う色に変えてしまった。フィルムで覆ったので、いつでも出自の色に戻すことは出来る。代わりに靴は似た色を選んだ。

 

父を持ち出したのはただの言い訳、詭弁だ。所詮は自分の物欲を満たしただけに過ぎない。相変わらず逃げてばかりだと怒っているだろう。

 

マンションの立体駐車場には少なからぬ台数の車が収まっている。その一番はやく出られるパレットに4cスパイダーは居る。狭くて人も物も載らない。五月蝿いし揺れる。機械の借力は期待出来ない。そんな車だ。せめて、はやく走り出せる様にという思い遣りだろうか。

 

無骨な、不器用な揺籠だと思った。ずっと乗っていたいと思った。

 

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