池井戸潤氏の「半沢直樹 アルルカンと道化師」を読みました。今回は年次的には一番古い、則ち若い時代の半沢直樹の物語ですが、安定の勧善懲悪物。桃太郎侍サラリーマンになる、みたいな感じです。
池井戸潤氏は「赤い銀行」に勤めていた経験がおありで、ために、成る程銀行の内部事情について精緻に描写しているな、と感心したかと謂うと、そうでもありませんでした。ちいと展開が都合良すぎますし、半沢の人脈に因するのかも識れませんが、彼の行いを必ず誰かが、加うるに銀行内の実権者が知悉している。本篇では半沢は地方支店の融資課長です。銀行の部門長や、まして役員が一支店の課長の働きを推し量っていると謂うのは無理があるような気がします。まあ、そんなことを気にして読む小説ではありませんし、とても面白いのですが。
だんなは半沢直樹シリーズは凡て読了しています。原作の半沢は、テレビドラマで演じる堺雅人氏に比べると、容姿は野暮天で、発言も冷淡な印象です。本篇では半沢の容姿について一切著述されていないのは興味深い一点でした。
「アルルカン」こと「アルレッキーノ」は伊太利亜の即興喜劇「コメディア・デコルテ」に登場する、法螺吹きで強欲で狡猾で喰い意地が張った人物です。銀行に限らず、押し並べて組織には必ず居ますね。
一方で道化師、ピエロは元元純粋で純潔な農民でした。本篇では「アルルカンと道化師」の絵画が絡む謎解きが物語に奥行きを与えていますが、自分の利益を優先する権力者と、顧客に誠実に向き合う半沢の対比を書名に託したのかも識れません。
アルルカンやピエロは実際に絵画のモティフとして多く描かれ、パブロ・ピカソも薔薇色の時代に好んだ画題です。純粋で純潔な道化師が、強欲なアルルカンを排して、笑顔で支え合える薔薇色の時代を取り戻して欲しいと願う許りです。