印面が多孔質材料で形成され、内蔵された顔料系洋墨の浸透により朱肉が不要な印鑑と謂えば「シヤチハタ」が有名ですね。日本独特の判子文化に於いて、三文判とも認印とも異なる使用目的を立ち位置として、加うるに相応に使用頻度は高い。即ち利便性が高く、安価で耐久性も備えた「あると便利な」印顆です。契約印や証印として用いることは出来ませんが、だんなのような昭和世代は、社内文書の回覧時に重宝したのではないでしょうか。
勿論、今でも活躍の場は少なくないでしょう。面白いのは外装色も種種揃っていて、日本の伝統色である「薄紅」「桜鼠」「灰白」「淺葱鼠」などがあることです。冩眞のシヤチハタは靑鈍と謂う、薄く墨色を帯びた昏い靑です。
日本の伝統色は、300色とも497色とも。色見本を見ているだけで愉しい。日本の自動車にも斯様な外装色が採用されて欲しいものです。喩えば「錆鉄御納戸」なぞどうかしらん。澁いと思うんですがねえ。
因みにシヤチハタの「ヤ」は小書き文字ではなく、所謂「並字」です。キヤノンなどと同じですね。全体の均整を考えてのことだそうですが、小書き文字は「捨て仮名」とも謂われます。ために、避けたのかも識れません。
今出来では毎日捺すことはありませんが、無くてはちいと困りもの。小さいけれど持ち重りが良く、好もしい使い心地は余印を以て代え難い。
「靑鈍」は平安時代には凶色とされ、江戸時代には禍を祓われ「碧鼠」となったとも謂われます。臍曲りで旋毛曲りのだんなは、そんなところにも拘りを感じて惹かれてしまうんですが。