主人公の山田羽仁男は自殺に失敗し、どうで拾い物ならばと三流新聞の求職欄に広告を出します。
「命売ります。お好きな目的にお使い下さい。当方、二十七歳男子。秘密は一切守り、決して迷惑はおかけしません」
識らずに読んだら、著者が三島由紀夫だとは分からなかったと思います。本の帯に書かれているとおり、まさに「怪作小説」にして「エンタメ小説」です。筋立てや設定は端的に謂ってしまうと二流ですが、前半は物語の展開がはやく、後半に向けて主人公の心裡をぐいぐいと穿孔深掘りしていきます。ために、実に面白い。随所に潜む麗しい文体に、はたと膝を打つ。初出は「週間プレイボーイ」の連載小説ですので、一読安っぽい固茹で卵のようですが、終盤の心裡描写には唸らされ考えさせられます。
一読の価値あり、でした。