だんなが小学生の頃にスーパーカーブームと謂う潮流がありました。池沢さとし氏の漫画「サーキットの狼」が調子を牽引し、目にした事がない美麗な車の数数に瞬時に歓心を絡め取られました。父に連れられて行った「スーパーカーショー」で見た名車の麗容は、未だに心に残っています。
いつか叶うならば乗りたいと思っていた其れ等の車たちは、今や太宗が雲の上の存在になってしまいました。ぺこぱさんが時を戻して戴けるなら、何としても入手したいのが「DINO206GT」です。生産台数僅か150台。ピニンファリーナによる唯一無二の美麗なフォルム。アルミ製のボディにオールアルミブロックの内燃機。ポルシェから特許を買って内製したシンクロギア。もう二度と産生されることの無い、頂点を極めた車だと思います。
後継としてDINOの名を冠した208/308GT4は、フェラーリの血族としては異例のベルトーネ(当時のチーフはカウンタックのデザイナーとして高名なマルチェロ・ガンディーニ)によるデザインでした。ために、今ひとつ人気に恵まれなかった様ですが、スーパーカー世代としてはエッジの効いたシェイプと謂い、開閉式のヘッドライトと謂い刺さりどころ満載です。而して此方も市場には殆ど出回らず、お値段も右肩上がりに高騰する一方。所詮叶わぬ夢幻か。
自動車評論家の徳大寺有恒氏は晩年「釣りに喩えるなら『鮒に始まり鮒に終わる』様な肩肘を張らない車が良い」と述懐されています。然し乍らそれは数多の名車を乗り継いだ巨匠だからこその言葉。だんなの様な未熟者は、未だ未だ少年の目に眩しかった宝石にも似た一台を夢に見てしまうのです。