膠原(註:コラーゲンのことです)が體内で劣化すると、肌は張りを喪い皺を惹起し、腱は精緻な密度を保てず運動能力が衰弱します。だんなも敗色濃厚にて老化は歩度を詰める気配はありません。ために、食による補完をと思い立ちました。
ご賢察の通り、大失策です。先ず加熱により膠原はゼラチンに変成し、加うるに消化の過程でアミノ酸に分解されますから、効果は推して識るべし。それで良いのです。抑、美味しい鍋を食べる逃げ口上なのですから。
鮟鱇に鱈の白子、種種のくさびらで料って戴きます。だんなは大口開けて俟っているだけですけれど。
鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる
加藤楸邨の句です。凄みと共に違和感を憶えます。江湖によく識られる鮟鱇の調理法は吊るし切りです。凍らせてぶつ切りにするのは何故でしょうか。一般に鮟鱇は雌の方が体が大きく食用に適しているとされています。雄は体が小さい典型的な矮雄で、一部の種では雄は雌に吸収されてしまうのです。大きく滋味深い鮟鱇は吊るし切りで身を取りますが、雌雄に限らず凍らせてぶつ切りと謂うのは小さな個体を捌く合理的な方法だったのでしょう。
身を病んだ楸邨は、自らを俎の上の鯉、或はぶちきられる鮟鱇に喩えたのでしょうか。小さく重きを置かれない、吊るし切りに値しない鮟鱇に、己の無力を重ね見たのでしょうか。
とまれかくまれ滋味を戴き、御馳走様でした。
鮟鱇や明日も笑壺に入る旨さ