うちのふうふとエイトのこと。

黒トイプーのエイトや車。ふうふの日常について。

蒲公英。

 

1985年に公開された、伊丹十三脚本・監督の映画、タンポポ。先日、久方ぶりに鑑賞する機会がありました。改めて補完した情報と、食文化に蘊蓄が深く知悉している氏の撰述等を欠文に連ねます。宜しければお付き合い下さい。

映画の惹句は「喜劇ラーメン・ウエスタン」。手蔓となったマカロニ・ウエスタン同様に造語でしょう。米英欧ではスパゲッティ・ウエスタンと呼ばれた西部劇。スパゲッティでは細くて頼りないと謂う理由から、マカロニと言い替えたのは映画評論家の淀川長治氏だそうです。

タンポポ」では、本編と直接関係の無い13の挿話を挟みながら物語の筋を通していきます。幕間劇の一篇をご紹介。西洋料理店で、音を立てずにスパゲッティを食べる作法を教える講師と聴講生。近くのテーブルで一人料理に立ち掛かる外国人男性が、店内に轟と響く心胆寒からしめる音量でスパゲッティを啜り上げます。結句、講師も聴講生も礼節作法は傍に置き、ずるずると音高らかに平らげる。日本初の仏蘭西菓子専門店、ルコントのオーナーパティシエだったアンドレ・ルコント演じる外国人の傍目八目で、本来の作法に外れているのだよと諷しているものと理会していました。

著書「ヨーロッパ退屈日記」のスパゲッティの正しい食べ方から一文を抜萃。「つまり、日本では、麺類は、つるつると音を立てて吸い込むのが当然とされているが、外国ではこれが、非常な無作法、度外れた育ちの悪さ、ということになる、ということです」。タンポポの挿話は、伊丹十三の灰汁抜けした諧謔だったのですね。

本篇の筋立ては、客入りの乏しくなったラーメン店の女性店主タンポポ宮本信子)が、長距離トラック運転手ゴロー(山崎努)の力を借りて「行列の出来るラーメン店」を目指すと謂う至極平たいものですが、ために潔く面白い。

再開初日の盛況な客入りを確かめて、静かに立ち去るゴロー。とんでもなく恰好いいんですが、僭越の極みを承知でひとつ註文を。この時、莨に火をつけるのはジッポのオイルライターではなく、伊丹十三監督が著書「再び女たちよ!」で世界一と讃じていた「ベンラインのマッチ」を登用して戴きたかった。なぞ生意気な騒音を立てるのはマナー違反。失礼致しました。

 

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