渡辺努教授の「世界インフレの謎」を読みました。
足許のインフレの主因が露西亜の烏克蘭侵攻ではない「戦争はインフレの主原因ではない」。では何が真因か。世界のインフレに対する打ち手は何か。日本が如何に特異な環境にあり、経世済民に立ち掛かるにはどうするべきなのか。と謂ったことが丁寧に、しかし重複せずに且つわかりやすく溶かしてくれています。
2000年から2021年に於ける日本の名目賃金の伸び率は、経済協力開発機構(OECD〉加盟国34カ国中最下位、加うるに唯一のマイナス成長です。一方で日本のインフレ率は国際通貨基金(IMF)加盟国192カ国でこれ亦た最下位。物価も上がらず、賃金も上がらない環境では、生活水準は変わらない。ために、1990年以降は賃金も物価も水準が「凍結」されている。賃金が上がらないのは、労働者と企業の「謂わぬが花」の暗黙の了解が醸成されていたからだったのでしょう。
パンデミックは世界の構造を大きく変えました。需要も供給も。そしてコロナウイルスも変異を続けています。ウイルスが生存確率を高めるようとするならば、高齢者よりも若年層への感染力を高める筈です。事実、変異株では労働生産性の高い年齢層への感染率が高じています。渡辺教授の謂うパンデミックの「後遺症」は経世済民に永らく影響するやも知れません。生産効率が下がれば、インフレは加速します。インフレを止める方策はあるのか。色々と考える嚆矢となる良書でした。
物価高が進めば、実質貨幣価値は下がります。近時は早期リタイアについての書籍が累次刊行されていますが、インフレを考慮した経世済民的自立をどなたかご教授戴けますでしょうか。