うちのふうふとエイトのこと。

黒トイプーのエイトや車。ふうふの日常について。

眠る偽者。

 

だんなは本を読んで瞼が垂れてくることは殆どありません。時無しに眼光を紙背に徹しているわけではないですが、読者中に眠気を感じているとすれば、それは書見の前から眠かったということで、活字を追って睡魔が惹起されるのは希です。

塩野七生さんの「男たちへ」だけは異例です。電車内で読めば、寸刻俟たずに白河夜船で目的の駅まで夢路を辿ります。ために一向に捗りません。何故こんなに眠いのか。著書には副題が付されており、「フツウの男をフツウでない男にするための54章」とあります。中学生でアンドレ・ジイドを読み、海外の生活も平気の孫左衛門どころかローマ名誉市民である才媛が江湖の男たちに向けた「男児斯くある可し」とする指南書で、文体は優しいのですが兎に角内容は抜き身の真剣です。本物の凄みというか、理の当然ご尤もの示唆ばかりでして、どうで太刀打ち敵いません。著書にも「なにもかも事情に通じている者の忠告や助言は、ほんとうのところは実に有効なのだが、それが有効であるだけになお、与えられる側は悲鳴をあげるにきまっている。嘘だと思ったら、一度試してみたらよい。」とあります。嘘なんて口が裂けても言いませんので、試すのはご寛恕頂きたい。不如帰も縮みあがるくらい、血を吐きながら悲鳴を上げてますから。

寝逃げ」という、悩みや問題をいったん先延ばしして善処を図る睡眠は、現実逃避の手段として理に適い有用だそうです。だんなは理も識らず実行しているのでしょう。「男たちへ」が投げた「本物の」提起に向き合う腹が固まらない偽者は、一先ず寝て起きてから考えようと。

普通の対義には、特殊、特異、奇異などの言葉もあります。ならばだんなは「フツウ」でよろしい。そんな居直りには「寝言は寝てから言え」と叱声を投げられるでしょうね。